MURDER DOLL
【マーダー・ドール】






「あなた、マリー・クレールに似てるわ」
突然ソフィア嬢は一人のメイドを掴まえて、鮮やかな青のドレスを着た可愛らしいビスクドールをそのメイドの前に突き出した。

まだ6歳のソフィア嬢は大きなエメラルドの瞳にミルク色の肌とばら色のほおと輝く金色の巻き毛のまるで人形のように愛らしい、陸軍次帥エイブラハム・J・ベールの最愛の一人娘であった。

「ね、栗色の髪とか顔とかそっくりだわ、マリーは青いドレスがお気に入りなの」
緑の芝が青々と広がるこの中庭で、ソフィア嬢はお気に入りの人形たちとおままごとをするのが大好きだった。
今日も彼女とその大切な友人である人形たちとのお茶会が開かれていた、
そこに偶然通りかかったこのメイドが彼女の目に止まったらしい。

「…わたくしに?似ていますか、それは光栄ですお嬢様、でもわたくしよりマリー様の方がよっぽどお可愛らしいですわ」
このメイドは優しく微笑みながらそう言って謙遜してみせた、
ソフィア嬢は何がそんなにも嬉しいのか大きな目を一層輝かせて人形とメイドを交互に見つめた。
「マリー・クレールがあなたとお友達になりたいって言ってるわ」
まだあどけないソフィア嬢の世界ではマリー・クレールもその他の人間も変わりなき住民のようだ。
メイドはマリー・クレールの磁器製の白い手をそっと取ってうやうやしく挨拶した。
「こんにちはマリー様、はじめまして、どうぞよろしく」
メイドの対応に満足したのか、ソフィア嬢はウフフと可愛らしく笑ってまた人形たちとのおとぎの世界に戻っていった。
ホッとして立ち去ろうとしたメイドに先ほどからその様子を遠くで見ていた女が近づいてきた。
「ビックリしたでしょう?」
メイドに声をかけたその女はこの別邸に持病の療養の為に来ている、かのソフィア嬢の身辺警護を勤めるミルドレッド・ファーガソン護衛隊長だった。
邸内における全ての警備員達の隊長を務める身でありながら27歳とまだ若く、均整の取れた長身の美しい体に勝気な美貌と彼女のトレードマークとなっている見事な赤毛がこの新緑のまぶしい美しい庭園に更なる彩を添えていた。
「え、ええ、少し驚きました」とメイドは苦笑いを浮かべながら肯いた。
「お嬢様は持病のこともあって同い年の友達がいないものだからああやってお人形とばかり遊んでらっしゃるの、たまに人形に似た女中なんかを見つけるとそれは喜ばれてね、あなたもお嬢様のお気に入りになったようだからまたお嬢様がお声をかけてきたらどうか相手になってあげて頂戴ね」
「はい、もちろんです」
メイドは微笑みながら快く答えた。
「ああ、あなた初めて見る顔だわ、昨日新しく来たメイド達の一人ね、名前は?」
ミルドレッドが何気なく尋ねた。
「オブライエン、メアリー・オブライエンと申します」
メアリーと名乗ったメイドが恭しく頭を下げた。

ここはベール家が所有する不動産のうちの一つ、地中海にある孤島であった。
この孤島に建てられた豪奢な別荘にベール次帥の愛娘ソフィアが持病の小児喘息の為に療養に来ていた。
この平和で温暖な気候の別荘地では無縁のように見えるが、その実ベール次帥の身辺は何かと切迫していた。
先の戦闘で戦略上重要な半島を敵に奪われてしまったこと、その責任問題や奪還作戦やよからぬ噂に昼夜頭を悩ます羽目になっていたのだ。
そして何より彼を心痛に至らしめているのは「よからぬ噂」の方だった。
とある要人の暗殺・殺人を専門とする特殊部隊がベール次帥自身ではなくその愛娘に狙いを付けているというのだ。
次帥にこの大きな失敗に責任を取らせるというなら話は判るがなぜその娘が狙われるのか。
要するにこれは軍部の派閥闘争だ。
娘を殺したからといって戦略上何の影響があるものでもない、万一娘が殺されベール次帥が「心痛のあまり」指揮を取れないというなら他の将官が代わりを務めればいい話しだ。
次帥にとって抵抗勢力である派閥が痛い失態を受けているところにさらに揺さぶりをかけて更なるダメージを与えるつもりなのだろう。
なんにせよ、血なまぐさい事柄とは無縁のあどけない幼い娘を狙うなど非道もいいところである、今のところ単なる噂に過ぎないが神経過敏になっているベール次帥は万が一の事があってはと愛娘のソフィアをこの海に囲まれた孤島に療養をかねて隠したのだ。

一見、平和そうに見えるこの孤島の別荘にも、その実、実に厳重な警備が敷かれている。
ここで働いている侍女や庭師や調理師といったあらゆる使用人から警備員に到るまで全て身元の確かな信頼の置ける者たちであった。
彼らは唯一の交通手段である船でこの島に連れてこられる。
人数も管理され、島に上陸すると同時に各個人に与えられるIDパスがなければこの邸内に入ることさえ出来ないのだ。
入り口に、通路に、各部屋にとIDカードリーダーが設置され、パスを通さなければ扉は開かないし、もしもパスなしで進入しようとするものがあれば各所に配備された警備員が即座に駆けつける仕組みになっている。
監視カメラの数も半端ではない。
館内におけるセキュリティーシステムは万全のものだった。

「だめ、シンシア、そこはマリーのお席なの、あなたはこっち、リズはここに来て、みんな仲良くしましょうね」
ご令嬢が人形たちを相手に他愛もない遊びをしている最中のことだった。
令嬢がエリザベスと名づけたビスクドールに手を伸ばした時、その腕がマリー・クレールに当たり、マリーが小さな椅子から落ちてしまったのだ。
「マリー!!ごめんなさいマリー、痛くない?痛くない?」
ソフィアが慌てて人形を拾い上げ今にも泣き出しそうな体で人形に尋ねた。
「ああ、ミルドレッド!大変なの、マリーが椅子から落ちちゃった、ねえ?マリー大丈夫かしら?怪我してない??」
ソフィアは慌ててそばにいた護衛隊長のミルドレッドに人形を差し出しながら大きな瞳を潤ませて尋ねた。
ミルドレッドも心得たもので、さも大仰に顔をしかめ人形の胸に手を当てたり、手足を擦ったりした後、にこりと笑ってひとつ大きく頷いた。
「大丈夫ですお嬢様、マリー様はどこもお怪我はされていませんよ、ご安心を」
「でもマリー、私のこと怒ってないかしら?」
「マリー様がお嬢様を怒ったりするはずがありませんわ、マリー様にお聞きになれて見ては?」
そう言って人形をソフィアにそっと手渡す。
「…うん、よかったマリーもう痛くないって、ゆるしてくれるって、よかった、ほんとうにごめんなさいねマリー」
ソフィア嬢も納得したようだ、ミルドレッドの顔にも心からの笑顔が浮ぶ。
こうして、一見平和に見えるこの島の一日が暮れる。

真夜中になった途端、おだやかだった日中とはうって変わり、孤島の別荘は激しい雷雨の嵐にみまわれていた。
一時的なものだということだが、年間を通して気候のほとんど変わらぬこの島では珍しいことだった。
ただこの季節、何日かはこういう夜がある。

時折、轟音と共に走る閃光にミルドレッドはふと心配になった。
久しぶりの悪天候に、もとより身体の弱いソフィア嬢がまた体調を悪くしないかということだ。
いや、喘息の発作が起きなくとも雷に怯えていたりはしないだろうか?
時間的にはソフィア嬢はとっくに熟睡しているはずだが…。

― まあ、ナニーもそばについているから私のでる幕ではないかな…。

ご令嬢にはとことん甘いミルドレッドも安に構えていた。
一見優雅な孤島の別荘。
しかし中身はほとんど要塞並のこの場所に、その実暗殺者は狡猾に、しかし誰に疑われること無く既に忍び込んでいた。

メアリー・オブライエン。

日中、ソフィア嬢に声をかけられたかのメイドは確かに実在する人物である。
この邸内に入れるのは、女中とはいえ厳選され、家柄はもちろん由緒ある出身の者であったし、第一この館には決められた人数以外誰一人として踏み入れることは適わない筈だった。
しかしそれをそれを可能にしたのがメアリーというごく凡庸なこの女の存在だった。

この邸内にいるメアリーは実はメアリーではなく、遼那(リャオスン)が巧みに彼女に化けた姿である。

3ヶ月ほど前、ここに招き入れられる使用人たちのリストを極秘裏に手に入れたある任務を命ぜられたジーメンス大尉率いる「特殊部隊」は厳選に厳選を重ね、メアリー・オブライエンならば遼那が成りすませると判断した。
要するに似たような体格や身長や顔立ち、真似できる声色などの項目をクリアした者。
それが彼女だった、遼那側にとっては好都合、メアリーにとっては不幸な偶然。
それからしばらく、誰にも知られること無く特殊部隊のメンバーはメアリーの身辺を徹底的に探り、その話し方から仕草から、ちょっとしたクセまでありとあらゆる情報を収集し、それらを徹底的に遼那に教育し身につけさせた上で、彼は完璧なまでに「メアリー・オブライエン」に成り切ることに成功したのだ。そうしてここへやって来た。
そして、さらに巧みな人物の入れ替えは実在のメアリーが船から降りてこの島に足を踏み入れたその夜の一瞬の隙を付いて行われた。
あらかじめ見付からぬようごく小型の船舶でこの島に上陸し、待機していた遼那以下数人の小隊は、波止場のすぐ側に潜伏し、目的の人物メアリーが上陸するのを待った。
彼女を見つけると、黒尽くめの隊員の一人が潜んでいた立ち木の中から素早く身を乗り出して彼女に悲鳴を上げさせるまもなくその中へと引き込み、首をかき切った。
それと同時に既にメアリーに扮した遼那がすぐ隣の植え込みの中から何食わぬ顔で現れ、上陸した召使たちの列に加わって、メアリー本人としてIDを受け取りここに潜入することに成功したのだった。
そして気の毒な本物のメアリーはそのまま袋にくるまれて、海へと流された。


それはひときわ大きな雷鳴が閃いた直後だった。
邸内の電気系統が全てダウンした、落雷による停電だと思われた、邸内の者たちは一瞬驚きの声を上げたものの、すぐに事の次第を察し、今に自家発電システムが再作動するだろうと安心しきっていた。
しかし、10分たっても15分たっても邸内は闇に包まれたままだった。

おかしい。
異常に真っ先に気が付いたのはミルドレッド護衛隊長だった。
通常なら5分から10分で電源は元に戻るはずだ。

彼女は即座に邸内の警備員達に非常事態の可能性を示唆し、直ちに警戒体勢を取り邸内を捜索するよう命じた。
邸の電源は落ちても各個人で持ち歩いていた連絡用無線は生きている、
そのおかげで警備員たちはあらかじめ決められた邸内の持ち場各所に素早く散った。
なにより心配なのはあの噂だった。
あの天使のように愛らしいソフィア嬢が暗殺の危機にさらされているかもしれないという噂だ。
ただの噂であって欲しかった、幼い令嬢には何の罪もない、もし彼女に万一の事があったら…。
ミルドレッドは闇の中をハンディライトで照らしながら己の持ち場である令嬢の寝室へと足早に向かった。
外の嵐はまだ止みそうにない。

フロア中央の階段を上り、慎重に歩を進めていく、雷鳴の止んでいるあいだはとても静かだ、いや、静か過ぎる、静か過ぎて胸騒ぎを覚える。
「お嬢様…」
彼女は呟いてそろそろと彼女の寝室がある廊下をすすんだ、
すると、静寂の中から小さな声が聞こえた、
その声はシクシクとすすり泣いているようだった。
あどけない子供の小さな泣き声。
「…お嬢様?お嬢様ですか?」
ミルドレッドが闇の先にライトの光を照らしながら問いかけた。
するとその光の円の中に小さな裸足の足が見えた、続いて白いレースの可愛らしいネグリジェの裾。
ソフィア嬢だ、彼女は泣きながらヨロヨロとこちらに近づいてきた。
変だ、何故彼女は一人なのだ?ナニーはどうしているのだ?にわかに得体の知れない不安がミルドレッドをおそった。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
ミルドレッドがソフィアに声をかけた、すると逆光でよく見えなかった目の前の人物がミルドレッドだと令嬢も気が付いたらしい。
「…ミルドレッド…?」
彼女は思わずライトを手放して令嬢の小さな手をとって握り締めた。
「ええ、私ですお嬢様、こんな時間にいったいどうされたのですか?何が…」
「あのね、マリー・クレールが怒ってるの」
ソフィアがしゃくり上げながらそう言った。
「え?」
マリー・クレールは令嬢にとっては仲の良い友達でも現実にはただの人形だ、ミルドレッドは彼女を安心させるように頭を撫でた。
「…マリー様が?そんなはずはありません、怖い夢でもご覧になったのでしょう?」
「ううん、やっぱり怒ってるんだって、昼間わたしが椅子からおとしちゃったから」
想像力豊かなお嬢様は昼間の些細な出来事を気に病んで大方嫌な夢でも見たのだろう、ミルドレッドは令嬢の両肩を優しく掴んでその瞳を覗き込んだ。
「そんなことはありません、マリー様はお嬢様のお友達じゃありませんか、許してくれたと言っていたでしょう?」
「ううん、ゆるしてくれないの、だって」
そこまで言うと、令嬢は途端に糸の切れたマリオネットのようにクタリと崩れ落ちた。
その身体がミルドレッドの腕の中に抱きとめられる。
「お嬢様ッ!?」
ミルドレッドが叫んだ、気が付かなかった、彼女の背中が朱に染まり、大きなナイフが突き立っていることに。

なんてことだ!お嬢様が!お嬢様が!!
無線に向かって呼びかける。
「誰か!!!誰か!!!すぐに医者を!!お嬢様がお怪我を・・・・」


カタン。

闇の中から音がした、先ほどソフィア嬢がやって来た方向から。
咄嗟にミルドレッドは床に転がしていたライトを手に取り、その闇の廊下を照らした。
「誰だ!!」
腰の拳銃に手を掛け薄闇に向かって怒号した。
誰がお嬢様にこんな酷いまねを!
すると廊下の奥からコトリ、コトリ、とゆっくり近づいてくる足音が聞こえた。

光の円の中に浮かび上がる、美しい青のドレス。
栗色の巻き毛。
貼り付いたような微動だにしないほほえみを浮かべる、白い顔。

彼女は己の目を疑った。

「…マリー・クレール…?」

馬鹿な、そんなはずはない。
ミルドレッドは思い直した。
マリー・クレールのような青いドレスを着ていてもこいつは人間だ、何者かが人形の真似をしているのだ。
「貴様は誰だ!!」
ベルトから素早く銃を抜き取りその等身大の人形に向かって銃口を向けた。
等身大人形は何も言わず、微笑みを貼り付かせたままスッと手にしていたナイフを上げた。
「そのナイフを下に下ろせ!!さもなくば撃つ!!」
ミルドレッドの命令に、この生人形は素直に従った。
ナイフが手を離れ、ストンと軽い音を立てて床に突き立つ。
この青いドレスには見覚えがあった、確かベール公の奥方様の物の筈だ、この別荘においてあったドレスだ。
マリー・クレールのそれに似てはいるが同じではない、だがその姿はまるで等身大のマリーそのものであった。
「…お前は…、そうか、…メアリー・オブライエン…だったな…昼間の、貴様が…貴様がお嬢様を…!」
おそらく、このメイドは立ち去った振りをして昼間のあのやり取りを見ていたのだろう、そしてこんな茶番を演じたのだ。
彼女の怒りに震える手が今にも引き金を引き絞ろうとした瞬間、大きな雷鳴が轟いた。
その鼓膜が破れるほどの大音響に一瞬、すくみ上がったミルドレッドに隙が出来た。
それが命取りになった。
大きな人形はこれを狙っていたかのように足元に突き立っているナイフの柄を素早く強く蹴り上げた。
蹴り飛ばされたナイフが回転しながら飛びミルドレッドの胸に勢い良く突き刺さった。
その勢いに釣られるように、彼女の身体が大きく後方にのけぞる。
瞬間、彼女の銃から放たれた弾丸は天井に穴を開けただけだった。





邸内の警備システム及び予備電源は何者かによって爆破されていた、雷鳴にまぎれてその爆破音に誰も気が付かなかったのだろう、いつまで待っても作動しないのは当たり前だ。
完全に非常事態だと悟った警備隊たちが飛び交う情報に右往左往している間、一隻の小さな船がこの島を静かに離れていったことに気がついた者は誰一人としていなかった。


「遼那」
船の前方を見つめていたジーメンス大尉が突然声をかけた。
「はい?」
長い栗毛のカツラはすでに外したが、青いドレスを着たのままの滑稽な姿の遼那が顔を上げた。
「何を隠し持っている、捨てろ、持ち帰ることは許さん」
ジーメンスは振り返りもせず、遼那に告げた。
遼那はイタズラがばれた子供のようにペロっと小さく舌をだしてバツの悪そうな顔をした。
「あは、バレてましたか」
そういうと大きく膨らんだドレスの中に手を差し入れ何かを船の床に転がした。
ゴロっと鈍い音を立てて出て来たのはミルドレッドの頭部だった。
「だって、僕、赤毛で気の強そうな美人さんが好きなんですもん、すごく好みのタイプだったんですよ、このひと」
遼那はその頭部を両手で持ち上げつくづく眺めた、薄く開かれた目と口、己の血で朱に染まったその顔は、生気を完全に失った物体でしかなかった、だが、かの勝気な美貌だけは死してなおそのままだった。
しばらく眺めつくして諦めが付いたのか、遼那はひとつため息を付くとその首の唇にそっとキスをした。
「とても残念です、それじゃ、さようなら」
漆黒の海に投げ落とされたミルドレッドの首はその落音を船のモーターの音にかき消され、一度も浮ぶ事無く沈んだ。

いつの間にか静けさを取り戻した空は今は遥か遠く微かに聞こえる雷鳴と無明の闇だけを残して無限に広がっていた。




―報告書―

ベール陸軍次帥のご息女、ソフィア嬢暗殺についての訴追報告。

ソフィア嬢は背中から刃物で心臓を一突きにされほぼ即死の状態だったと見られる、寝室近くの廊下に倒れているところを邸内を捜索していた警備兵に発見された。
犯行時刻は午前0時15〜20分ごろと推定。

他死者三名。

一名は令嬢の隣部屋にいた乳母のモリー・R・ノーグ。
睡眠中に頸部動脈をかき切られて即死したものと見られる。

もう一名は警備の総責任に当たっていた護衛隊長のミルドレッド・ファーガソン。
令嬢の遺体のすぐそばで発見された。
直接の死因は「複数の刺し傷」からの出血多量によるものとの結果報告が本日提出された。
しかしながら頭部のみが発見に至らず。
何らかの意図により犯人が持ち去ったものと思われる。

そして侍女のメアリー・オブライエン。
一時行方不明となっていた為、被疑者である可能性が疑われたが本日の海上捜索でメアリーの遺体を発見、回収した。
死因は頸部動脈切断による失血死。
犯人はこのメアリー・オブライエンに変装して邸内に侵入したと見られている。
検死解剖の結果、胃の中に上陸前船内で取った食事がほぼ未消化で出てきたことから犯人は上陸直後にメアリーを殺害して入れ替わったものと推測される。
メアリーを含む侍女総勢16名が島に上陸したのは犯行前夜の20時丁度。
約丸一日、犯人はメアリーになりすまし邸内にて行動していたと思われるが誰も彼女についておかしな点に気がついたものは居なかったとこのこと。
このことから、事前にこの島に従事する者たちの情報が漏洩していたと考えられ、また犯人はメアリー・オブライエンを入念に調べ上げていたことがわかる。

当日海上の警備には二隻の巡視艇が配備されていたが犯人は最少人数で小型の船舶にて上陸していたものと推測。
少人数での活動及び当日の悪天候を利用し警備の目を逃れたとみられる。

いずれにしても犯人は逃走。
犯人に繋がる物証は一切残っていない。
追って調査鋭意継続するがこれ以上の訴追は難しいものと思われる。

以上。






【遼那氏の殺人現場、女装で】とのリクエストでした。
長ったらしい文章の割に見せ場が少なくて、そのうえイラストも少々手抜き気味で申し訳ありません。
時間があったら色塗りしたいと思いますが…。





戻る